CADの選定は、道具選びではなく経営判断
木工所にとって図面は、製品と同じくらい大切な資産です。どのCAD(設計ソフト)を使うかという選択は、これから10年分の設計データを「どの形式で」「誰の管理下に」置くかを決める話であり、単なる道具の好みでは済みません。
当社はCADに、オープンソースの FreeCAD を選びました。決め手は、すべての操作をPython(プログラミング言語)で扱えることです。

前提: 大手CADは「自然言語で図面が描ける」時代へ
まず、世の中の動きから。AutodeskをはじめとするCAD大手は、AIを製品に組み込み、言葉で指示すると図面やモデルの生成を手伝ってくれる機能を急速に進化させています。「幅900・高さ1800の収納棚」と伝えれば、たたき台のモデルが返ってくる——そういう世界は、もう始まっています。
これは素晴らしい進化です。ただ、小さな会社の立場で冷静に見ると、気になる点もあります。
- その便利なAI機能は、ベンダーの料金体系の中で提供される(値上げやプラン変更を受け入れるしかない)
- 設計データがベンダー独自の形式に深く結びつき、他の道具に乗り換えにくくなる
- AIに「何をどこまでさせられるか」は、ベンダーの提供範囲で決まる
つまり、AIの恩恵を受ければ受けるほど、特定の会社への依存が深くなる構図です。
FreeCADの本質は「CADが丸ごとPythonでできている」こと
FreeCADには、他の多くのCADと決定的に違う特徴があります。画面上で行うすべての操作が、内部ではPythonのコードとして実行されているのです。線を引く、寸法を変える、図面を書き出す——全部です。
これが何を意味するか。人がマウスでやれることは、すべてプログラムから自動で実行できるということです。
当社の仕事に当てはめると、こうなります。板もの家具(収納棚・カウンター・建具)は、幅・高さ・奥行・棚の枚数といった少数の寸法(パラメータ)で形が決まる製品です。この性質はパラメトリック設計と呼ばれる手法と非常に相性がよく、
- 寸法をパラメータ化した「ひな形モデル」をFreeCADで一度だけ作る
- 注文ごとの寸法をプログラムから流し込む
- 3Dモデル・図面(DXF)・板の切り出し情報が自動で出てくる
という流れを、自社のプログラムとして組めます。図面形式もDXFやSTEPといったオープンな標準形式で出力されるので、データが特定ベンダーに閉じ込められることがありません。
AIの進化が、そのまま自社の進化になる
ここでAIの話に戻ります。現在のAI(大規模言語モデル)が最も得意とする仕事のひとつが、Pythonのコードを書くことです。
つまりFreeCADを選ぶということは、「自然言語 → Pythonコード → 図面」という経路を自社の手の中に持つことを意味します。ベンダーがAI機能を提供してくれるのを待ち、その料金と仕様に従うのではなく、世の中のAIが賢くなるたびに、その進化がそのまま当社の設計自動化の進化になる構造です。
将来的には、この仕組みを「寸法を入力すると設計・見積までつながるセルフオーダーの仕組み」(現在は構想段階です)の土台にすることや、NC加工機(コンピューター制御の切削機械)への展開も見据えています。FreeCADには加工データを作る機能も備わっており、設計から加工まで同じ思想でつながります。
正直なトレードオフ
公平のために、弱点も書いておきます。FreeCADは商用CADに比べて、画面の洗練度や操作の快適さでは見劣りする場面があります。習熟にも時間がかかります。「今日から誰でも快適に」という道具ではありません。
それでも当社は、①設計データを自分の管理下に置けること(データ主権)、②自動化の自由度に上限がないこと、③AI時代の進化を自社に直接取り込めること——この3つが弱点を大きく上回ると判断しました。
まとめ
- CAD選定は「10年分の設計データをどこに置くか」という経営判断
- FreeCADは全操作がPythonで扱え、寸法駆動の自動設計を自社のプログラムとして組める
- AIがコードを書ける時代、「コードで扱えるCAD」はAIの進化を直接取り込める
派手さより、長く効く構造を選ぶ。設計道具についても、当社はその考え方で判断しています。