AI活用集大成

社内システムは、もう「買う」ものではない

基幹システムの入れ替えを機械メーカーでプロジェクトマネージャーとして経験し、数々のシステムを導入してきた人間の結論。Claude CodeとOSSの登場で、「ベンダーのシステムにユーザーが合わせる時代」は終わりました。

結論から書きます

中小企業の社内システムのほとんどは、もう「買う」必要がありません。

大きなことを言っているように聞こえるかもしれません。しかしこれは、思いつきでも、流行りのAI礼賛でもありません。機械メーカーで基幹システムの入れ替えプロジェクトをプロジェクトマネージャーとして率い、その後も現場で数々のシステムを導入し、そして今、自分の会社のシステムをすべて自分の手で組み上げた人間として、事実を順に述べていくだけです。判断は、読み終えたあとにお任せします。

順を追って説明します。

工房の机の上で、鉋と木屑の隣で動くコード(イメージ)

私は「システムにユーザーを合わせる側」にいた

前職の機械メーカーで、私はプロジェクトマネージャーとして、受注から請求まで、生産管理・工程管理を含む基幹システムの入れ替えプロジェクトを率いました。パッケージシステムの選定から要件定義、ベンダーとの交渉、社内への展開まで、2年半。この経験で骨身に染みたことがあります。

システム導入の実態は、「業務をシステムに合わせる交渉」だということです。

パッケージシステムには「標準機能」があります。自社の業務がそこから外れると、選択肢は3つしかありません。

  1. カスタマイズする — 1画面の変更でも、見積をもらい、稟議を通し、数ヶ月待つ
  2. あきらめて業務を変える — 現場に「今日からこのやり方で」と頭を下げる
  3. システムの外でしのぐ — Excelと手作業の「裏業務」が静かに増殖する

どれを選んでも、削られるのは現場の仕事の質と時間です。導入から数年経つ頃には、システムの周りにExcelの衛星が何十個も回り、「何のためのシステムだったのか」と誰もが思う。多くの会社で見てきた光景であり、私自身がその構図を作る側にいました。

だから、これは外野の批評ではありません。あの構図は、ベンダーが悪いのでも、ユーザーが悪いのでもなく、「システムを作れる人間が希少だった」という一点から生まれた必然でした。 作れる人が希少だから、作ったものを大勢に売るパッケージが合理的になる。パッケージだから、ユーザーが合わせるしかなくなる。すべてはそこから始まっていたのです。

その前提が、崩れました

この1〜2年で、2つのことが同時に起きました。

1つ目。オープンソースソフトウェア(OSS)が「一部の技術者の道具」から「世界標準」になったこと。

OSSとは、設計図(ソースコード)が公開され、誰でも自由に使えるソフトウェアのことです。かつては「不安定で玄人向け」というイメージでしたが、今は逆です。世界中の企業と技術者が開発に参加し、下手な商用製品より鍛えられています。業務管理のOdoo、設計のFreeCAD、データベースのPostgreSQL——当社が使うこれらはすべてOSSで、世界中の何十万という企業で動いています。「大企業の道具」が、中小企業の手にも届く時代は、すでに来ていました。

ただし、OSSには壁がありました。「自社に合わせて設定し、つなぎ込み、細部を作り込む」技術力が要る。この最後の壁が、多くの中小企業をパッケージ購入に向かわせていました。

2つ目。その壁が、AIコーディングエージェントで崩れたこと。

私は Claude Code というAIエージェントを使っています。これは「質問に答えるAI」ではありません。やりたいことを日本語で伝えると、実際にプログラムを書き、設定を行い、動かして確認し、問題があれば自分で直す——そこまでやるAIです。

かつて数ヶ月待ちだったカスタマイズに相当する作業が、その日のうちに終わる。これが誇張でないことは、当社のシステムがすべて証明しています。

積み上がった仕様書の山と、1台のノートパソコン(イメージ)

当社で実際に起きていること

理屈ではなく、事実を並べます。当社(従業員数名の木工所です)で現在動いているシステムです。

  • 業務基盤: 見積→受注→請求→経費をOdoo(OSS)で一元管理。日本の商習慣に合わせた見積書・請求書の帳票も、AIと一緒に自社で作り込みました
  • 会計連携: スキャンした領収書をAIが読み取り・分類し、会計ソフトへ渡すパイプライン
  • AIエージェントの常時運用: 書類の自動整理、日次レポートの自動配信、サーバーの見張り番
  • 設計: FreeCAD(OSS)。全操作をプログラムから扱えるため、将来の設計自動化の土台になります
  • インフラ: 社内サーバーを自社構築し、事務所と工場を暗号化された閉域網で接続。データは毎日自動バックアップ
  • このホームページ: 制作も、お問い合わせフォームも、アクセス解析の設定も、すべて内製です

重要なのは、どれひとつとして「業務をシステムに合わせた」ものがないことです。全部、うちの仕事のやり方に合わせて作られています。合わなくなったら、その日に直します。

前職で経験した基幹システムの入れ替えは、数年の歳月をかけて「標準機能に合わせる交渉」をする仕事でした。同じ機能群を、いま私は一人で、自社の業務にぴったり合う形で持っています。この落差は誇張ではなく、毎日の運用の中で静かに確認している事実です。

「仕組み」と「やりたいこと」で無限に広がる

この新しいやり方の本質は、発想の順序が逆転することです。

今までは「システムに何ができるか」を調べ、その範囲で業務を考えていました。これからは「業務をどうしたいか」を先に考え、システムを後からそれに合わせて生やせます。制約が消えると、改善は「導入」という一大イベントではなく、日常になります。「ここが不便だ」と朝気づいたら、夕方には直っている。システムが業務を追いかけてくる感覚です。

そして、この力を最大限に引き出せるのは、意外にも大企業ではなく中小企業です。大企業では調整と統制に時間がかかり、システムを一日で変えるわけにはいきません。意思決定が速く、業務の全体を一人の頭で見渡せる規模——中小企業こそ、この時代の最大の受益者です。

正直に書く: 魔法ではありません

確信の記事だからこそ、限界も正直に書きます。

  • 業務を言語化できる人間は必要です。 AIは「やりたいこと」を形にしますが、「何をやりたいか」を決めるのは人間です。自社の業務の急所がどこかを知らなければ、指示のしようがありません。私の場合、メーカーでの生産管理・プロジェクト管理の経験がそのまま効いています。
  • 責任は自分で持つことになります。 ベンダーとの契約には「何かあったときに頼れる窓口」が含まれていました。自作の道を選ぶなら、バックアップ、セキュリティ、復旧手順といった守りの規律を自分で敷く必要があります(当社の体制は別の記事に書きました)。
  • すべてが対象ではありません。 給与計算や年末調整のような、法令と共に毎年変わる領域は、専門のサービスを使う方が合理的です。「作る」と「借りる」の線引きこそが判断力です。

つまりこれは「誰でも簡単に」という話ではありません。**「業務が分かる人間にとって、実装がもはや壁ではなくなった」**という話です。壁は実装から、業務理解へ移りました。そして業務理解は、現場にいる人間が一番持っているものです。

結論

システムベンダーが作ったものにユーザーが合わせる時代は、終わりました。その時代の内側で仕事をしてきた人間として、これは意見ではなく観察です。

これからの社内システムは、買うものでも、我慢して合わせるものでもなく、自社の業務理解を写し取って育てていくものです。OSSという世界品質の部品と、Claude CodeというAIの実装力。この2つが揃った今、あとに必要なのは「自分の会社をどうしたいか」だけです。

当社はこの考え方を、木工所という最も伝統的な現場で実践し、その記録をこのサイトで公開し続けます。同じ立場の中小企業・製造業の方へ。焦る必要はありません。この変化は、私たちのような小さな会社にこそ向いています。

そして、「自社をどうしたいか」はあるが最初の一歩に迷う、という方へ。同じ現場の人間として、当社がその仕組みづくりに伴走することもできます。お気軽にご相談ください